東大寺南大門前の老舗奈良漬店
【第1回】奈良の発酵文化
日本は世界有数の発酵大国。みそやしょうゆ、酒などの調味料に、漬物など、日本料理には欠かせないものがたくさん! 奈良には私たちが漬ける奈良漬など発酵食品の名物があります。中でも古くから人気があるのがお酒です。今回は、奈良漬とも関わりの深~い奈良のお酒の話。
奈良の酒が有名になったのは室町時代。「僧坊酒」という、お寺が造る酒の中でとりわけ評判が高かったのが奈良のものでした。室町幕府9代将軍・足利義尚が「酒には良しあしがあるけど、興福寺が献上するお酒が一番いいね!」と絶賛。豊臣秀吉が京都の醍醐で開催した花見に提供され、大坂冬の陣でも徳川家康の本陣に届けられるほど人気がありました。
また、奈良の僧坊酒の中で最も良いとされたのが菩提山正暦寺で造られた「菩提泉」。「菩提山」「山樽」などと呼ばれ、室町貴族に人気があったそう。実は織田信長が安土城で徳川家康をもてなした際にも菩提泉が献上されたのだとか!
さらに正暦寺は当時の酒造りにはない最新技術を駆使していました。仕込みを3回に分けて行う「三段仕込み」、麹と掛け米の両方に白米を使う「諸白づくり」、酒母(お酒の素になる酵母)の原型「菩提酛」に、腐敗を防止する「火入れ殺菌」を行うなど、近代の酒造りの基礎となる技術を確立していたのです。
江戸時代に入ると、当時の最先端技術だった諸白づくりの酒は「南都諸白」と呼ばれ大人気となりました。後に、京都の伏見や兵庫の灘・伊丹にとって代わられてしまい、産業としては衰えていきましたが、江戸時代中期の大仏再建あたりから奈良観光が盛んになり、奈良のおみやげとして活躍をするのです。その人気ぶりはすごく、当時のガイドブックである名所図会や案内記のほとんどが、土産物の欄に「諸白」を記載していたほど。
これだけお酒が人気を博すと、その工程で大量に出るのが酒粕。奈良の人は酒粕も無駄にしません。奈良で多く生産されていたウリを酒粕に漬ける粕漬を作っていたのです。それがいつしか奈良漬と呼ばれるようになり、現代まで奈良のみやげ物として定着していったのです。
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